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それから私はまた、駅員室の椅子に座って何かを待っていた。
もう乗る予定だった電車なんてとっくに行ってしまった時間で、寧ろ本来なら学校の最寄り駅に着く頃だった。
「あの、学校に遅刻する様でしたら電話したいのですが……」
駅員さん、初老の警官、婦人警官と固まって深刻そうな顔をしている所に、声を掛ける。
ぱっと振り返ったのは婦人警官で、彼女は「そうだね」と呟いた。
「ごめんね、学校は間に合わないから電話して貰えるかな……私が電話しようか」
「いえ、自分でします」
忙しそうな3人を見ていると、電話してもらおうという気も失せた。
3人に背を向けた私は携帯の電話帳から高校の番号を探し、発信ボタンを押す。
「おはようございます。1年5組の橘ですが、佐山先生はいらっしゃいますか?」
『はい、おはよう。……佐山先生には後で伝えるから用件を教えてくれるかな』
受話器から聞こえる声に私は躊躇う。
あまり沢山の人に知られたくない用件である。
それに今更だが、この状況をどう説明すれば良いのだろう。
しかし迷っていても仕方ないので、私は手短に、正直に話す事にした。
「通学中に痴漢を捕まえたのですが、これからの予定が全く分かりません。申し訳ありませんが、遅刻するとお伝え願えますか?」
『……は?』
威厳と落ち着きを無くした声が、遠くから聞こえている。
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