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そんなに戸惑われても、私にだってこれ以上言う事はない。
寧ろ今、この状況に一番戸惑っているのは私自身であるのだ。
ふいに、母親の顔が脳裏に浮かんだ。
あの、とか、その、とか呟く電話の向こうの誰かを放って腕時計を見ると、母親が仕事に行く時間迄5分とない。
「すみません、もうよろしいでしょうか?」
私が電話口にそう問うと、相手は心底救われた様に「おう」と応えた。
『じゃあ佐山先生には伝えておくから』
失礼します、と電話を切る。
直後に私の指は、母親の電話番号を呼び出した。
『…凛子?』
母親の心配そうな、でもどこか訝しむ様な声。娘はもう学校に着いているものだと思っているのだろうから、仕方ない。
「あのさぁ……例の痴漢覚えてる?」
『うん、○○線のでしょ?』
「そう。私さっきアイツを捕まえちゃって……」
『……はっ?……えぇ?』
無理もないなと、私は思う。
そうなると、先程の学校の電話に出た先生の反応も、責めることは出来ないかもしれない。
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