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その日は偶然やってきた。
私は遂にアイツの正体を掴む事に成功したのだ。
いつもより更に混んでいた電車内、私はドア付近から人の波に押し流され、車両の中程まで来てしまった。
これでは終着駅で降りにくいな…
そう考えて憂鬱になった時、目の前に立っていた若い女性が電車の揺れによってよろけた。
乗客がよろけて他人に当たってしまうのはよく有ることなので、大して気に止める人もいない。
しかし私は、その女性のコートに釘付けになってしまった。
フェルトの様な生地で出来たロングコート。私と同じ位身長の高い彼女の膝裏位迄の丈があり、広がった裾は電車の動きに併せてふわふわと揺れていた。
私が目を奪われたのは、その色である。
朝の眠気も軽く吹き飛ぶ様な鮮烈な赤色を、それはしていた。
ワインレッドなどではなく、絵の具のチューブをそのままパレットに絞り出した様に純粋な、赤。
心の底から綺麗だと思った。
自分が着ている黒いファー付きの男性用コートもかなり気に入っていたが、それには無い、女性らしい美しさを彼女のコートは持っていた。
なんか良いな、そう思った時である。
女性の左斜め後方、つまり私から数人を挟んだ左隣から白い手が伸びてきたかと思うと、その手は私が見ている真っ赤なコートの裾を掴んだ。
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