あの頃の黄昏へ

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『カンカンカン…』 先の方で世田谷線の若林踏切が鳴って、二両編成の可愛い電車がガタゴトと緩慢に通り過ぎて行く。 環七通りに今尚残る渋滞の元凶だ。 10月に入ったと言うのに東京は夏がぶり返した様な暑さで、アスファルトの上には微かな陽炎が揺れていた。 ナビ側のパワーウインドウを少し下げ、エアコンのスウィッチを回して外気導入に切り替えると、ポケットから取り出したショートホープに火を点けた。 「相変わらずショッポですか…」 運転していた同僚の桂が、一本くれと手刀を切る。 渡してから古びたZippoで火を点けてやると、忙し無げに吸い込んで火先に巡らせた。
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