旋律は春雷の如し

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翌日、市内に有る小さなレコーディング・スタジオで名を告げると、入口の男は面倒臭そうに手にしていた雑誌を置き、何やらメモを確認して顔を上げた。 「ミスター ア・サクラ フロム ジャパン?」 「イエス」 桜って日本語は知っている訳だ。1輪の花ではないが、俺で間違いない。 男は建物の奥を指差す。 「アップステア ターン・レフト ワン、トゥ、NO.3ドア オーケィ?」 語学力は必要なかったな。建物は2階建て。中学生でも解かる説明だ。 「オーケィ サンクス」 DVDに収録する新譜のデーター・ファイルは、既に嵩子から奏の元に送られている。 俺が日本を発った後に3人で作製し、こちらの時間で昨晩深夜に届いただろう。 言われたとおりに階段を登り、3番目のドアをノックすると内側からハンドルが動き、男が顔を覗かせる。 「アサクラ?」 「イエス」 『入れ』と顎で促され、足を踏み入れた部屋はモニター・ルームだった。 オーソドックスな造りだ。隣室を確認できる大きな窓の前に、ミキサーやパソコンが並べられている。 壁際の1人用ソファーに深く身を埋めていた少女が、ヘッド・フォンを耳から外した。 「朝倉? さん?」
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