旋律は春雷の如し

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「少し歩かない?」 ギターを置いた奏の提案に頷き、近くの公園まで足を伸ばす。 「疲れたんじゃないですか?」 黙って首を横に振る奏に、朝倉は気になっている質問をしてみることにした。 「なぜストラトを? ギブソン派だったと憶えていますが」 足を止めた奏の瞳が、ジトーッと向けられた。 「朝倉は、かなり弾けるよね」 「え? 学生時代に遊んだだけですけど。それって分かるものなんですか?」 「分かるよ。見ている視線が違う」 『へぇー。そうなんだ』 と、思いながら再質問をする。 「どこが違うんです?」 「普通は派手に動く左手に注目する。でも朝倉は……」 「あー」 「お尻や胸を見ていた」 「あーぁあああ!?」 「うっ、そ。右手を見る頻度が高い」 大人をからかうな! と、思いつつ考えを巡らせる。 そうかもしれない。左手は音を聴いていれば、何となく予想が付く。 1度見てビックリすれば充分だ。どうせ俺には出来ないのだから。 むしろ音色を決めるのは、ピッキングしている右手。
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