旋律は春雷の如し

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9時には間に合わなかったが、都心に乗り入れた朝倉は、深く帽子を被った人影を歩道に見つけクルマを寄せた。 「お待たせ」 「うぉい。腹ペコだ」 3日ぶりのフレーズが妙に懐かしく、帰って来た実感が湧くことに苦笑しながら、分かり切った質問をする。 「なに食いますか?」 「焼き肉」 「たまにはヘルシー・メニューも」 「焼き肉。今日はプールとヴォイスのコンボ日だったぞ。倍の焼き肉だ」 「へいへい」 嵩子から預かった《気軽に立ち寄れる店リスト》を思い起こし、朝倉はウィンカーを上げた。 本題の口火を切ったのは真矢。 「あいつ、元気だった?」 前を走るクルマのテール・ランプを見つめながら、朝倉は軽い調子で返す。 「元気でしたよ。正直、あーいうタイプとは思っていませんでした。小悪魔系って言うんですかね」 「あいつはな、高校時代からモテモテだった。得な性格だよ、まったく。ステージ見たんだろ? そっちは?」
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