688人が本棚に入れています
本棚に追加
9時には間に合わなかったが、都心に乗り入れた朝倉は、深く帽子を被った人影を歩道に見つけクルマを寄せた。
「お待たせ」
「うぉい。腹ペコだ」
3日ぶりのフレーズが妙に懐かしく、帰って来た実感が湧くことに苦笑しながら、分かり切った質問をする。
「なに食いますか?」
「焼き肉」
「たまにはヘルシー・メニューも」
「焼き肉。今日はプールとヴォイスのコンボ日だったぞ。倍の焼き肉だ」
「へいへい」
嵩子から預かった《気軽に立ち寄れる店リスト》を思い起こし、朝倉はウィンカーを上げた。
本題の口火を切ったのは真矢。
「あいつ、元気だった?」
前を走るクルマのテール・ランプを見つめながら、朝倉は軽い調子で返す。
「元気でしたよ。正直、あーいうタイプとは思っていませんでした。小悪魔系って言うんですかね」
「あいつはな、高校時代からモテモテだった。得な性格だよ、まったく。ステージ見たんだろ? そっちは?」
最初のコメントを投稿しよう!