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『遅いなぁ』
ジャージにキャップ帽を目深に被り、素足にサンダル履きの私がウロウロする。
ギター・ケースを抱え、道端に○○○座りすると、何だか昔に戻ったみたいだ。
そうそう、思い出すなぁ。
デビュー前にさ……
「ちょっと、いいかな」
人が思い出に浸ろうとしているのに、見知らぬおっちゃんが近付いて来た。
マズイことに変装を省いている。
無視だ、無視。
で、なんだっけ?
あ、デビュー前だよな。
「ブツクサ言ってないで、ちょっとコッチ見てくれるかな?」
ふぅ……
あー?
YOU! 私に道を訊くだけ無駄だぞ。
差し出される手帳。
ちっ、バレたのか。頼む。サインはするから、ここで騒がないでくれ。
……
えーと……ショウネンホドウインアカシ?
《少年補導員証》
うっは、びみょ……
24だとアピるべきか? でも、ちょっと嬉しいんだが。
「い、一応は卒業したけど」
……
スッピン眉無し女だが、さすがに顔を上げれば学生には見えなかったらしい。
おっちゃんの言葉遣いが変わる。
「お忙しいところ恐縮です。実は家出少女の捜索中でして、それらしい人物を見ませんでしたか?」
黙って首を振る私。
「ご協力感謝します。では」
立ち去る補導員。
近くに停車した普通のクルマから、朝倉さんが腹を抱えて降りて来た。
『もっと、ゆっくり来いよ』
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