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50分後、急ぎ足で指定のロビーに到着した朝倉は、ひとまず落ち着いて辺りを見回した。
それらしい女性が見当たらないことを確かめ、化粧室へ向かう。
鏡に映る自分の姿。
まぁ、住居が無いにしてはソレナリに整った方だ。
1週間ぶりでスーツに袖を通し、髭を剃った。
髪を上げサイドを固めたので、一応ビジネスマン風に見える。
就活学生なら失格だが、この業界だとしたら、否それもまだ分からないが、充分な身形(ミナリ)だと思う。
チェックを終えロビー中央の柱に立った時、エレベーターから女性が1人現れた。
スッスッスッ
流れるような歩き方。
言っていた通りの格好だが、打ち合わせが無くとも目を引く物腰。
『……って、おいおい』
サングラスの下からロビーを見回した結果、対象者を柱に立つ男と確定させたようだ。
迷わずこちらへ歩いて来ると、僅かにサングラスを下げ、会釈をしながらの確認。
「笹木です。朝倉さん?」
「え、ええ。そうです」
「ミーティングルームを借りてあります。一緒に来てください」
『どーいう展開なんだ?』
繋がるようで繋がらない。
『ははーん』と、思うようでいて、実のところよく分からない。
ヒールを絨毯に沈ませて歩くTAKAKOの後ろを、朝倉は無言で追従するのみだった。
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