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子供の母親は、何が起こったのか理解出来ていない様子で、ただ我が子を抱きしめている。
積み上げられていた缶詰と、まだ箱に入ったままのそれら。
そのすべてに押し潰されるように、人が一人埋まっていた。
急いで缶詰を退かす。
ある程度体の上から退かせば、埋もれていた人物は自力で這い出した。
その体躯は細い少年のそれ。
少年は頭をふり、視線を前に向ける。
その視線を追うと、先程の親子に行き当たった。
ふう、という安堵の息が少年から漏れた。
のそり、と立ち上がり、ぼく達の方に振り返る。
ぺこ、と頭を下げ、少年が缶詰を拾いはじめた。
「あ、いいですよ。我々がやりますから……それより大丈夫ですか? 怪我とかなさってませんか?」
店長が少年に尋ねる。
ぼくは缶詰を拾うのに専念しようとして、その手を止めざるをえなくなった。
ちらと見えた少年の顔が、友人の弟にくんによく似ていたから。
少年はメモに何やら走り書きして店長に見せた。
それを読んだ店長は、名刺を少年に渡し、何度も何度も頭を下げている。
少年もそれに頭を下げ、その場を離れようとした。
「待って!」
立ち上がり、呼び止める。
何、とでもいいたげに、傾げられた首。
ぼくが投げかけた言葉に、あんな返事が帰されると、ぼくは予想だにしなかった。
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