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プロローグ
「はあ……っ、はっ、……っは……!」
草の擦れる音が直線的に鳴り響く。
「嘘、嘘だ……! 何であいつ……、僕を捨てて……っ!」
仄かな月明かりの下、男が息を切らせながら森を走っていた。
その声は命の危機を纏っている。
「いたぞ!」
「あそこだ! 捕まえろ!」
複数の男の声が辺りに響いた。
黒い人間達が、彼を徐々に追い詰めていく。
「――ハールっ!!」
――その中で一際速い男が、逃げる男に近づいた。
「ラダは何処だ! 何処にやった!」声は怒りに満ちている。
「知らない……僕は、知らない!」
ぶつかる音。
二つの塊が草の中へ転がりこんだ。
「……っ、嘘を言うな!」
「嘘じゃない! ラダは……居なくなったんだ!」
片方が片方の頬を殴りつけ、顔を近づけた。
「――殺すぞ、お前」
「……やめて、やめてくれ」
恐怖に慄く男の周りに、追いついたらしい人間達がぞろぞろと集まり始めた。
彼らからは「村を侮辱した罪人が」等という罵りの言葉がちらほらと出ている。
「お前の仲間達も、今頃は月の上さ」
「そんな。あの人達は関係ないのに……」
「……お前も直に送ってやる。仲良く暮らすんだな」
梟の鳴き声が森を悲しく照らしている。
これから犯す更に“大きな罪”を責め立てるように――
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