♥の苦悩

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 隼人の指が静止する。  髪に絡まった指の温もりが果歩の皮膚に伝わってくる。  「果歩キスしていいか?」  恋人ならば、抱きあってキスをする。当然の展開。  でも友達以上恋人未満の微妙な関係のふたりだ。  「俺、男だからこうしてるとさ……」  歯止め利かなくなる、  隼人の苦しそうな吐息が果歩の鎖骨にかかる。  果歩は人として隼人が好きだ。  キス……、キスをしてもいい、隼人が望むならば。  (キスくらい)  果歩の頭に鮮烈によぎった。  それは利己的で今、この時だけの感情。  (ズルいね)  だけど、ねぇ隼人許して。先のないキスかも……。  キスかもしれないんだ。  それでもいい?  (あたしは今届くところにある人を失いたくないだけ)  安心できる愛がほしい。  思い出に溺れてしまう、弱い脆(モロ)い、あたし。  ひとつの歌に、すぐ涙目になる、さびしいあたし。  「……駄目か」  抱きしめる腕を隼人が緩めた。2人の間に少し隙間があく。  果歩の瞳は隼人の瞳を見ていた。  丸っこい二重の瞳が心配そうに果歩を見つめている。
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