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慎の瞳だけでなく、さらっとした髪の感じ、口元、青いシャツから透けている腕の形、
全部、ぜんぶ陵に見えてくる。
陵の生存を知らなかった悔しさをどこにぶつけてよいのか、果歩は途方にくれた。
「知らせることができない事情があるんです」
「今は教えてもらえるの?」
突っかかるような言い方しかできない。大人の余裕なんてない。嵐のせい?
(ちがう)
(陵の事情を知らされなかったことがショックなんだ)
でも泣きたくない。パンダ目になりたくない。悔しいから果歩は歯をくいしばり我慢する。
薬を飲んだから、大丈夫。
きっと、だいじょうぶ……。
「その様子だったら、少しずつ話したほうがいいですね」
慎は果歩を気遣うように言う。
「ううん」
気遣いなんて要らない。
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