♠弟

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 「この電話番号は陵くん本人から聞いたんです」  「え?」と稔がひるむ。  果歩は深呼吸をして、説明した。  「沼田慎さんが陵くんの携帯を持っていて、そのケイタイからわたしに連絡があったんです」  気づけば「陵さん」ではなく「陵くん」に呼び方が変わっていた。もう気遣う余裕が全く果歩にはなかった。  「……」  稔は黙ったままだ。  果歩から携帯を奪い取るのは無理だと思ったらしく、隼人も耳をすませるように静かだ。  ようやく稔が吐き出すように出した言葉は、  「沼田慎が……兄の携帯を持っていた……」  という切れ切れの言葉だった。  憤りさえ感じられる、荒い息とともに、稔は繰り返した。  「ケイタイを慎がもっていた」  そして稔は絶句した。
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