♠会社

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 慎の瞳に光るものがあった。  陵のメールは、その当時の携帯電話で送ることが出来る字数が限られていたため、数回に分けて送られていた。  「慎へ」  件名が慎宛てのそのメールには、テロを目前にした恐ろしい情景が綴られていた。  10年前の9月11日のテロに遭遇したことが、陵の考え方、生き方を変えたのだ。  メールに綴られた陵の想いは、生々しく哀しかった。  また、加えて異母兄弟である慎への慈しみと謝罪、もうひとりの弟への想い、  最後に果歩へのさよならの言葉があった。  読んでしまってから、社長はデスクに静かに携帯を置く。  「これは花井さんに見せるべきだよ……それに、君のもうひとりの稔さん、お兄さんにも」  「ええ。それに僕は謝らないといけません」  (稔と会って話をするために、時間がほしかったんだ)  慎はかゆいところを掻くしぐさをして、目の中にあふれてくる熱いものを留めた。
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