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今となっては後手になっているが、果歩に話をして、稔に携帯を返そうと思う。
「もうひとつ、訊きたいんだが」
社長が花井との会話を記録したメモを見る。
「花井さんの話では、陵さんは生きているということだが、本当なのかね?」
「ええ、生きています」
「ならば、陵さんの携帯なんだから本人に返すべきじゃないだろうか」
社長の言葉はもっともだ。しかし、今の陵には、10年前の携帯は、ただの物でしかない。
慎の目に再び熱いものが込み上げてきた。
「すみません……」
眉間を押えるしぐさで、涙を留める。
「わたしに陵さんの事を言いたくなければ、それはいいんだが……花井さんには話さないといけないよ」
「わかっています」
慎は時間をおいて果歩に話すつもりだった。
それを聞いて、社長は首を振る。
「いや、わかっていないな。沼田、わたしが便利屋を始めた理由を知っているかい?」
話が意外な方向にずれた。社長が意図してずらしたのだ。
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