♠会社

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 「わたしが便利屋を始めたのは、世の中で家族と言われる間でさえも分かり合えないからだよ」  「何をおっしゃりたいんですか」  「沼田、君も仕事で経験してきただろう。家族といわれる関係にありながら、その絆が今はどんどん薄れてきている」  社長は慎に陵の携帯電話を返した。  「家族同士で解決できないならば、他人の手を借りるしかない。その他人のひとりに、わたしはなりたいと思ったのだよ」  社長は、自分には身寄りがなくて家族と呼べる存在を自分の手で作り上げてきた、と話した。  「家族とは、何なんだろうね。元々の家族がないわたしは、妻や子どもをもった今でも手探りで父親をやっている感じだね」    慎は陵の携帯電話をカバンにしまいながら、涙もしまいこんだ。  その様子を見ながら、社長が笑う。  「だからね、家族の問題を家族のなかで抱え込んでほしくないと思って便利屋を始めたのさ」  「僕みたいにですか」  「自分のことは自分ではわからないものだよ。意地をはらずに花井さんに協力してもらいなさい」
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