第一章 夢

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 このあたりの学校だけで二十人を超える自殺者。つまりほとんどが学生だろう。しかしいくら自殺者が増えているからと言って、さすがにこれは多すぎやしないだろうか。 「まあとにかく今日はありがとね。それにしても自分から手伝ってくれるなんて、珍しいこともあるものね」 「は?」  思わずそう口にしていた。神崎は忘れているのだろうか。俺が一昨日言ってしまった言葉を。そしてそれを許す代わりに手伝えと脅してきたことを 「何よ」  毅然とした態度で、まるで自分がなにも忘れていないとでも言うように聞き返してきた。だから俺も彼女の間違いを指摘する気が失せてしまった。 「い、いや、なんでもない。ただ、これから俺の部屋に勝手に来るのだけはやめてくれないか?」 「なんで? 家だって隣なんだし、窓から侵入しても大丈夫なんじゃない? ……あれ、私何か忘れてないかな」  やはり忘れている。だが、なんとなくは覚えているらしい。ならば思い出させたほうがいいのだろうか。 ……とりあえずはもう少し様子を見ることにしよう。何か、何かがおかしいから。 「じゃあ、もう帰るね」  そう言って、彼女は俺の部屋を出て行った。
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