第一章 夢

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     3  外はもう暗くなり、外に見えるのは街灯と雲の上にある月の明かりだけだ。そのほかには何もない。私は、なんでそう思うのだろう。  何か忘れている気がする。とても大事なことを。そう思ったのは相馬くんの部屋で、自分で言った言葉が頭の隅っこに引っ掛かってしまっているからだ。  “家だって隣”  ああ、そういうことか。思い出した。男子生徒が自殺した日、相馬くんが私に言った言葉じゃないの。  このことで私が落ち込んで、彼が何でもするから許してくれと言って、私は彼に今回の自殺者のことを調べてくれたら許すと言ったのだ。  何故私は忘れていたのだろう。確か昨日の夜、寝る前までは覚えていたはずだ。  それで、眠りについた私は――、そうだ、私は夢を見たんだ。  青く澄んだ空間。私は水に浮いているはずなのに濡れてはいなかった。しかしその不思議な光景はどこか懐かしく感じられた。初めて見たはずなのにそう感じるのは何故だろう。  ずっとぷかぷかと浮いているのが心地よくて、嫌なことなんて全部忘れてしまいそうで、そう思っていたら綺麗な女の人が現れたんだ。 「私は貴方の苦しみを、取り除く者。貴方が口にしなくとも、私が貴方を救います」
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