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俺は自分の耳を疑った。だから、は? と小さく声をあげてしまった。しかし彼女はこれを、聞こえなかったものだと勘違いして、口を開いた。
「あの、さ。これ何回も言うの恥しいんだからね。朝まで私の側にいて欲しいの」
最後は消え入りそうな声。それだけ恥しいのだろう。それは当然だ。頼まれた俺だって恥しい。顔が熱くなるのを感じるほどに。
「な、何でだ?」
「ちょっと、私のこと見ていて欲しいの。もしも、何かあったら起こしてくれればそれでいいからさ」
こんなことを頼む意図が掴めない。彼女はいったい何を言っているだろうか。そういえば昼間も俺との約束を忘れていた。それどころか、俺が先日言ってしまった言葉すら忘れていた。もしかしたらこの頼み事は受けたほうがいいのかもしれない。それが彼女のためになるのなら。それに、彼女からの頼みは断りたくない。
「わかったよ。けど、俺も朝まで起きていられる自身はないぞ?」
「うん、いいよ。たぶん、相馬くんなら私に何かあったらすぐ気付けると思うから」
それは俺のことを信頼しているからなのか。それとも、彼女だけが信じる俺の内なる者の存在に対して言っているのだろうか。
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