序章

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 青く澄んだ空間に、僕は漂っている。水に浮いてるようなのに、濡れてはいない。  だがこの状態に驚くことはない。僕は幾度となくこれを体験している。ただ全体に青が広がる空間。ここに来たのは二日ぶりだ。  ここがどこで、何のための場所なのかは大凡の見当はついている。  ここは僕の夢の中で、嫌な思いを忘れさせてくれるのだ。しかし完全に忘れることはない。そのときの話をされれば思い出す。たぶんまだ完全ではなく、いずれ何があっても思い出さないようになる。  何となくではあるが、そんな気がするのだ。  だから安心して目を瞑る。次に目覚めたときには嫌なことを忘れ、爽やかな朝を迎えることができる。  そうだ。これから毎日、自分にとって嫌なことをしよう。例えば自傷行為なんかどうだろう。  いや、それでは傷跡を見て思い出してしまう。では他に考えなければ。  自分が嫌な思いをして、しかし後に何も残りはしないこと。  ああ、一つあるじゃないか。誰からも気付かされないことが。他の誰もが知っても、僕だけは気付き得ない方法。
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