妄想の秋

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机でものを書いてゐた。 締切は明後日だと云ふのに、なかなか思うやうに筆が進まない。 既に家の者は寝静まり、生まれたばかりの娘も、今日は鳴き声を上げることなく、気持ち良ささうに寝てゐるやうだ。 旧盆を過ぎ、八月の終りともなると、どことなく秋の気配がしてくる。 夜ともなれば空気は冷たく、庭の草むらからは、りんと虫の音が聞へた。 私は障子を開けた。 月の明かりばかりが、目につく。 風が通り抜け、私の髪を揺らして行つた。 「もう秋か……」 夏の終わりは良くない。 どうしてかうも、心をしんみりとさせるのか。
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