妄想の秋

3/9
前へ
/31ページ
次へ
――あれは妻(さい)と結婚して間もなく、近所を散歩した帰りのことだつた。 朱鷺色の夕焼け空が広がり、鈴虫の鳴く声が響きだしてゐた。 「夕日と云ふのは、どうも感傷的になつてよくないな」 妻(さい)は目を細めて、町に沈む夕日を眺めた。 その顔にも日が照り、ほのかに赤らめたやうに思はせる。 「さうですね。何故だか寂しい気になりますね。まるで明日が来ないやうに思へて」 「随分と文学的だな」 すると、妻(さい)は頬笑み「貴方の影響ですかしら」と云った。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加