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――あれは妻(さい)と結婚して間もなく、近所を散歩した帰りのことだつた。
朱鷺色の夕焼け空が広がり、鈴虫の鳴く声が響きだしてゐた。
「夕日と云ふのは、どうも感傷的になつてよくないな」
妻(さい)は目を細めて、町に沈む夕日を眺めた。
その顔にも日が照り、ほのかに赤らめたやうに思はせる。
「さうですね。何故だか寂しい気になりますね。まるで明日が来ないやうに思へて」
「随分と文学的だな」
すると、妻(さい)は頬笑み「貴方の影響ですかしら」と云った。
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