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いやいや、のけ反るな、しかもドヤ顔で言うなよ、人間にならなけりゃ良かったって思っちまうだろ。
人間に生まれた事への後悔と目の前のドヤ顔犬に言われた事への憎たらしい感情とが入り混じり複雑な表情で犬を見る、かなりデカイが多分まだ若いだろうな、毛並みも艶やかで表情や口調からしても老犬には見えない。
「んだよ……人間ごときが俺様を見るんじゃねぇよ」
「……はぁ、お前っていつからそうなんだ?」
「俺は生まれた時からずっとこのままだ、文句あるのか人間」
「ってか俺には名前があるんだよ、一くくりにした総称で俺を呼ぶな」
「ほぉ……そりゃ大層ご立派な名前なんだろうな、言ってみろ、ってか言え」
「生意気犬め……俺は辰村 一二三だ」
「ヒフミ?」
「あぁ、そういうお前は名前あるのか?」
「ねぇよ、あったとしても人間なんかに……いやお前ごときに言わねぇっつーの」
なんでこの生意気犬はこんなにも俺様なんだ、つくづくツイてない……犬にばれないように小さく溜息をついてからこめかみを軽く抑える、確かにこの時代に話す犬は珍しく無いが此処までふてぶてしい犬は初めて見た、恵美のチェルシーだって可愛いげがあって癒しだったのに……
「何溜息ついてるんだよ、ニュータイプニート」
「やめろ、ニュータイプとか言うな」
「事実だろうが、ってかニートは認めるんだな」
「事実なんだよ……仕事クビになるし彼女にはフラれる、マルサが死んでからずっと……」
マルサの事を思い出すと涙が滲みそうになる、そりゃ苦楽を共にした仲間と死別すりゃそうなるさ。
生意気犬に見られないようにする為に下を向き目頭を抑えると無関心な犬の声が鼓膜を叩いた。
「……マルサってのは犬か?」
「あぁ、落ち込んでる時は傍で励ましてくれてよ、なんで死んじまったんだよ……」
「お前はあれだな、犬が死んだってのを理由にしてる弱い奴だ、理由が自分に有ることを認めようとしねぇ愚かな奴だ」
「っ……お前に何がわかるんだよっ!」
「俺様は犬だから人間の気持ちなんざ知らねぇよ、けど犬の気持ちならわかる、犬になんの罪は無ぇな」
「んだと……」
怒りに身を任せ犬に怒声を浴びせるが犬は真っ直ぐな漆黒の瞳になんの感情も点さずに告げる、淡々と並べられる言葉に年甲斐もなく怒りに震えていると犬が寝ていた体制から座る体制に変わりニヤリと笑った。
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