複雑怪奇の章

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それはHUMMER H2リムジンだった。 車体からは白煙が登っている。 屋敷二階から飛び降り、幾重にも及ぶ鉄の格子を突き破った末、1500万にも及ぶ車が大破した。 「こ、この車は……!」 光が何か言おうとした時、運転席のドアが開いた。 なかからキャッキャッと笑う小鬼の声が。 「あはは! 左を踏むと停まるのだな!」 長い黒髪に光の目元ほどの身長、少女の風貌だが妖艶。 「あ、貴女は?」 やがて1人の男を奪い合う2人が、初めて出会った瞬間だった。 「何ぞ貴様。どいつもこいつも、自分から名乗ることを知らぬのか?」 光の身体を、つま先から髪の先まで値踏みする桜。 桜の挑発的な瞳に、光も不快感を示す。 「わ、わたくしの名は光でございます」 「光? はーん。貴様が光か」 「どうしてわたくしの名を?」 「教えん。神との約束でな。教えたら桜が鏡となってしまう」 「はい?」  
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