複雑怪奇の章

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桜の身長は光に比べて小さい。 だがその生意気で猟奇的な眼差しは、光の破天荒さを凌ぐものがある。 そして今の光は、どうも本来の調子ではなかった。 桜は匠へ歩み寄り、その眼帯を見上げた。 「貴様は誰ぞ?」 「ふむは匠と申します。恐らくですが、初代さまですね」 「初代?」 「ふむ。初代 長門家当主、長門桜さまかと」 初代という言葉に光の疑問を挟み、桜が匠を睨む。 「桜の名は桜。初代などという名ではない。それにしてもフムなのか匠なのか、どちらが名前じゃ? ハッキリせい!」 「ふむの名は匠ですよ、初代」 「初代様までもがこの現代に……」 融通の利かない匠に舌打ちをすると、桜は腰に手を当て破損した車を見た。 「まったく。ドの字ともはぐれてしまった。しかしなんだここは。花ばかり植えおって」 桜の苛立ちを尻目に、光は車が作った道に注目していた。 「……匠さま。ご覧下さい」 「ふむ。さすが初代。試練をまさに突破した」 「なんだ貴様ら。桜も混ぜい」 桜が貫いた道は、真っ直ぐに屋敷へと伸びていた。 「脱出が……可能になった」  
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