複雑怪奇の章

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桜が運転した車によって、迷宮の脱出が可能になっていたのだ。 「ここから行くといい光、桜さまも」 眼帯の当主、匠はその場を動かないまま、言葉で光の背中を押した。 匠のその様子に、光は疑問を抱く。 「匠さまは行かないのですか?」 「ふむ。この自動車は大変興味深い。少し触ってみたいが構わないな?」 片目の先に、破損し煙を吐くHUMMERがあった。 「も、問題はありませんが……」 匠が車から屋敷の方角へ視線を移すと、光もそれに続いた。 「それにあの屋敷も大変興味深い。超時空……超空とでも呼ぼうか。この自動車を触ったら、もう少し外装を見て回るつもりだ」 「……承知しました」 一緒に行く理由も止める理由も今の光には無い。 「ふむよ、何故桜にも行けと命令する?」 怪訝な顔の桜に、匠は屋敷の方角を指差す。 「あの中に、貴女様のお部屋もご用意しております。招待状は?」 「これか?」 匠の問いに、桜は懐のふくらみから1枚の手紙を取り出した。 すると匠も白衣から手紙を取り出す。 大きさも白の透明度も。2枚の手紙は同じものだった。 その内容も、文字の美しさも。  
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