階段

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人生の階段を駆け上がり、気が付けば普通の階段が上れなくなっていた。 眼前の階段が、私には万里の長城かエベレストの頂上に見える。 年齢だけならいざ知らず、寄る年波に身体は悲鳴を上げている。 あい あむ へるにあ。 母さんこと妻が死んで、昨日が三回忌だった。 そのせいか、なんだか母さんのことを昨日から思い出す。ただ一緒に昼御飯を食べたり、炬燵でまったりしながらぽつぽつと喋ったりした、他愛もない日常の記憶。 でも、仏壇の母さんは笑顔しか知らないような顔で、決して答えてはくれない。 だからだ。 ヘルニアを押して、母さんが死んでから一度も上がっていない二階へ上がろうと思い立ったのは。 きっと、少し寂しくなったのだ。 普通に足を上げると、ハウッ!!ってなるのは分かっているから、そっと2段目に座った。 そこから手と足のバランスを取りながら、ゆっくりとお尻を3段目に上げる。 これを繰り返すだけだ。 ただひたすらゆっくり。 どこも壊れないように。 自分を硝子のように扱いながら。 時間はあっという間に過ぎ、10段上がるのに気付けば30分が経っていた。 時間が速いのか、私が遅いのか。 ただ、額から汗が流れるなんて事を経験するのは久しぶりの事だった。 私は何を見つける為に頑張っているのだろうか。 母さんの遺品は粗方下の階に下ろしてある。 だから2階へ上がっても何もないかもしれない。今の頑張りは全て徒労になるかもしれない。 そんな事を思いつつ、また一段お尻を上げて乗せる。何もしていない筈のお尻まで痛くなってきた。 「よっ、こいしょ。……ふー」 ため息と共に埃が舞った。 母さんが死んでから一度も掃除していない階層だ。埃っぽくて当たり前。 「……あ」 よろよろと歩いてたどり着いた先は、母さんの部屋だ。 その景色を見て、思わず声が出た。 「…あ、あぁ…。あ、ははは」 懐かしい。 いつも模様替えばかりする母さんの部屋は、確かにいつも家具が歩き回っていた。 部屋のド真ん中に本棚が聳え、入り口の半分は息子のお下がりというかお上がりの机で塞がれていた。 出してきた衣装ケースが隊列を組んで押し入れに向かって進行中。 その全てが、綺麗に仲良く埃を被っていた。 「ぷひ、」 衣装ケース位入れて死なんかね、母さん。 笑いながら綺麗に放置された部屋の扉を閉め、階段へ向かった。
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