5人が本棚に入れています
本棚に追加
「結衣~!」
「うわ、ぐちゃぐちゃじゃん!」
学校に着くと親友の陽子が泣きながら飛び付いてきた。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった美人を、クラスの男子が遠巻きに見ているのが、ちょっとムカついた。だれか慰めるなりの挑戦をしろよ!
「どうしたの?」
「うっ、うっ、お金~」
「金?」
「お金落とした~!!」
…前言撤回。男子、許す。
「…また?どうせ通学中でしょ?」
「う"ん!」
「よし、鼻水飛ぶから二度と喋るな。帰りに交番行くよ」
「う"ん!」
「……このぅ」
という会話の性で泣きム親友を引っ張って交番に行くと、中には30代位の駐在さんが居た。
筋肉質でちょっと格好良い。
「すいませーん。この子が財布落としたんですけど、来てませんか?」
「うん?どんな?」
人見知りの陽子を前に押し出すと、陽子は狼狽しつつボソボソと財布の説明を始めた。
「紺色の…皮の…鰐のマークの…」
「ああ。多分分かったけど、一応確認で中身言える?」
「19万円位入ってます」
「そんなに!?」
横で聞いてた私に、思わず口を挟んでしまう程の驚きが走った。
どこの世界の女子高生が、学校で19万も使うんだよ…。中古自動車位買える金額だ。
「あははは、本当に君のみたいだね。安心したよ」
そりゃあ駐在さんだって大金の入った財布を届けられたら、扱いに困りそうだ。
子供達のヒーローたる駐在さんだって、欲望が無い訳じゃ無いだろうし。
というか、大金なのによく出てきたな。
「今朝パトロールしてたら拾ってね」
あぁ成程。駐在さんが確かに出した財布を見ながら、私は納得していた。
19万入ってたら、大抵の人はパクるに違いない。
「ありがとうございます!!」
「うん、良かったね。もう落としちゃ駄目だよ」
全くだ、と私も頷く。
「よし!じゃあ謝礼の一割を――」
「おいぃぃ!!」
思わず年上の男性に向かって叫んでしまったのも、分かろうというものだ。
合法的なだけに余計タチが悪いなぁ…。
「なんかもう大人としてダメだな!綺麗に別れようよ!尊敬が瓦解だよ!」
「えー、大人は大変なんだぞー」
「聞きたくないよ!大変だからって高校生に集るなよ!?尊敬にはお金で買えない価値が有るよ!プライスレスだよ!」
私は逃げるように陽子の手を引いて交番を出た。
通学路を変えようと決めた。
最初のコメントを投稿しよう!