子供達のヒーロー

2/2
前へ
/20ページ
次へ
「結衣~!」 「うわ、ぐちゃぐちゃじゃん!」 学校に着くと親友の陽子が泣きながら飛び付いてきた。 涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった美人を、クラスの男子が遠巻きに見ているのが、ちょっとムカついた。だれか慰めるなりの挑戦をしろよ! 「どうしたの?」 「うっ、うっ、お金~」 「金?」 「お金落とした~!!」 …前言撤回。男子、許す。 「…また?どうせ通学中でしょ?」 「う"ん!」 「よし、鼻水飛ぶから二度と喋るな。帰りに交番行くよ」 「う"ん!」 「……このぅ」 という会話の性で泣きム親友を引っ張って交番に行くと、中には30代位の駐在さんが居た。 筋肉質でちょっと格好良い。 「すいませーん。この子が財布落としたんですけど、来てませんか?」 「うん?どんな?」 人見知りの陽子を前に押し出すと、陽子は狼狽しつつボソボソと財布の説明を始めた。 「紺色の…皮の…鰐のマークの…」 「ああ。多分分かったけど、一応確認で中身言える?」 「19万円位入ってます」 「そんなに!?」 横で聞いてた私に、思わず口を挟んでしまう程の驚きが走った。 どこの世界の女子高生が、学校で19万も使うんだよ…。中古自動車位買える金額だ。 「あははは、本当に君のみたいだね。安心したよ」 そりゃあ駐在さんだって大金の入った財布を届けられたら、扱いに困りそうだ。 子供達のヒーローたる駐在さんだって、欲望が無い訳じゃ無いだろうし。 というか、大金なのによく出てきたな。 「今朝パトロールしてたら拾ってね」 あぁ成程。駐在さんが確かに出した財布を見ながら、私は納得していた。 19万入ってたら、大抵の人はパクるに違いない。 「ありがとうございます!!」 「うん、良かったね。もう落としちゃ駄目だよ」 全くだ、と私も頷く。 「よし!じゃあ謝礼の一割を――」 「おいぃぃ!!」 思わず年上の男性に向かって叫んでしまったのも、分かろうというものだ。 合法的なだけに余計タチが悪いなぁ…。 「なんかもう大人としてダメだな!綺麗に別れようよ!尊敬が瓦解だよ!」 「えー、大人は大変なんだぞー」 「聞きたくないよ!大変だからって高校生に集るなよ!?尊敬にはお金で買えない価値が有るよ!プライスレスだよ!」 私は逃げるように陽子の手を引いて交番を出た。 通学路を変えようと決めた。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加