■序章

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   みんな、どこに行ったの?  誰も居ないと知りつつも、僕はそう問い掛けずにはいられなかった。つい先程まで近くにあったはずの笑顔が、幻のように溶けて消え去る。まだ事態を呑み込めていない幼い僕にその理由を伺い知る術はなかった。  然りとて、もう誰も居ない事くらいは薄々分かっていたに相違ない。それでも尚、希望を手探りに探すように僕は願い続けた。不思議と涙は出ず、悲鳴を上げる気力もない。  不意に誰かの悲鳴がこだました。  紅の空に立ち込める排煙の根本から悲痛な誰かの泣き声が響いている。あそこに誰かがいる。それだけを心の支えとして、僕は鉛のように重くなった足を引きずりながら前へ前へと進む。  お願い、誰か現れて。誰か声を掛けて。いや、声を掛けなくてもいい。ただ側にいてほしい。それだけで救われるんだ。  排煙の根本に近付くにつれて悲鳴は次第に大きさを増す。相手の都合なんて今は二の次だ。ただ寄り添える相手が欲しいというエゴイズムだけで歩みを進める。  安心したいんだ。だから誰か。  誰か、僕の側に──。
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