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想像するのは、夜の延長戦と言わんばかりに真っ暗な部屋の中。そこからカタカタとパソコンのキーを叩く音だけが虚しく響く。カーテンは全て閉めきられており、パソコンの画面が放つ青白い光だけが、虚ろな瞳を持つ少女の顔を照らし続けていた。そして彼女の脇には何本ものゲームソフトが積み重なり、ある種の山と化している。
きっと想像した通りの光景が扉の向こう側に鎮座していることだろう。そう考えると少し笑えてきた。
僕は想像を続ける。
コンコン。
そんなキーを叩く音しか響いていなかった部屋に、不意に扉をノックする音が響いた。自分が発する音以外の不協和音に少女が驚いたように、だがそれでもマイペースにのろのろと顔を上げる。
彼女が見詰めるのは扉を隔てて向こう側にいる人物。つまり、ノックした人物に他ならない。この僕だ。
「咲、いるんだろ。開けろ」
ノックした後にそいつの名を呼ぶ。しかし一向に返事はなく、そればかりか暫くするとこれが返事と言わんばかりに、再びキーボードを叩く小気味よい音が扉を隔てて響いてくるではないか。
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