雷跡15 霧の向こう

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初速のみでいえば、10式2型の搭載する120mm55口径砲の方が上であるが、こちらはタングステン弾。 一方、M829A2は高密度を誇る劣化ウラン弾。 密度が高い分、それだけL/D値を多くしても質量損失が少ない弾丸だ。 運動エネルギーは同等か、ややこちらに分がある方だ。 複合セラミック装甲を相手にするために造られた弾丸だ。 旧世代の鋳造鋼板が勝てる筈もない。 〈3番車が吹き飛んだ!〉 〈7番車被弾、爆発!〉 〈2番車も被弾!〉 〈6番車、蒸発〉 地獄絵図とは正しくこの事だ。 一方的に降り注ぐ弾丸。 吹き飛ぶ砲塔。 砲弾が勿体なくなったのか、今度はアパッチが30mmチェーンガンを放つ。 本来、30mmチェーンガンは戦車に対しては無力な筈だが、所詮はこの時代の戦車だ。 車体上面に当たった弾丸は容易く装甲を貫通し、内部を滅茶苦茶にする。 誘爆する弾薬。 榴弾も誘爆したのだろうか? 盛大な爆炎と共に1番車が吹き飛んだ。 砲塔は20メートルはあろうかという高さまで舞い上がる。 成す手無し。 敗北を悟った日本兵は、一斉に戦車から飛び出した。 しかし、その頃には既にM4だの、M6だのといった戦車が到着。 ハッチから戦車長が顔を出すと、機関銃に手を掛け、トリガーを引いた。 吹き荒れる銃弾の雨。 四肢が奪われていく…… 「クッソ……」 俺達は、その様子を平然と見るしかなかった。 助けようにも、向こうにはエイブラムスとアパッチがいる。 それだけで俺達にとっては脅威としか言いようがない。 こちらからも手を打つ事は出来るが、今ここで戦力を減らす事は得策ではないだろう。 どこかで機を待つしか…… 「3佐、自走砲は打たないのですか?」 下から聞こえたのは宮島の声だ。 宮島もモニターからの映像を見ているのだろう。 「今は上空にF-35がうようよしている状態だ。 それに、アパッチもいる。 撃った瞬間位置がバレて返り討ちだ」 上空を眺める。 俺達を攻撃する機会をうかがっているかの様なF-35C。 しかし、攻撃してこない。 いや、これは時間調整? そう思った時、F-35Cの編隊は海へと進路を採った。 向かった先は……艦隊だ。
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