雷跡15 霧の向こう

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そんな隊員や兵士の横を通り過ぎ、通路を下へ下へと進むと、一路大井中尉の所へ向かった。 辺りには米兵の死体が転がっている。 閉所戦闘であっても、ショートバレルモデルのこの銃なら如何無く性能を発揮出来た。 そのまましばらく進むと、陸軍第4小隊の大井中尉がいた。 大井中尉も先ほどの爆撃を見たのか、基地の方向を茫然と眺めている。 「大井中尉、岡本です」 隊長が声を掛けると、くるりとこちらを向いた。 「岡本中佐、これは一体……」 「先ほどの撤退命令の話は聞いているでしょう。 そして、この状況。 単刀直入に申しましょう。 我がJ隊と同等、いや、それ以上の戦力を保有する部隊が、米軍に加勢したという所です」 「そんな! 聞いていませんぞ!」 「事実です。 でなければ、制空権が取れている中指令部を爆撃出来る訳がない」 「そうですか……」 肩を落とす。 当然だ、彼らは、J隊の戦力を知っている。 俺達1個連隊の持つ戦力は陸軍の1個方面軍のそれを上回る。 つまり、米軍にそれだけの戦力が投入されたという事だ。 「大井中尉、私は小隊長であるが同時に中隊長であるという特異的な立場にいる。 まぁ、上が私を戦場に出させたくないからそうしたんだろうが、すなわち、私はJ隊1個中隊。 すなわち、陸軍1個連隊以上の戦力を持つ立場にいる。 その立場にいる私から命令する。 大井中尉、引き揚げろ。 引き上げて、他の部隊と合流し、補給を得ろ。 此処からは私達の戦場だ」 「了解であります!」 大井中尉も、それなりの戦歴をつんだ指揮官だ。 しかし、その指揮官が新兵の様に敬礼をする。 「第4小隊は撤退準備にかかれ!」 戦場の形相は、再び姿を変えるのであった。 それから30分間、隊長は考え事をしていた。 10分程前に指令部との通信が再開し、補給の許可と俺達先強隊の合流が認可された所だ。 そして、入ってきたのは指令部爆撃のすぐ前に起きた戦車中隊の壊滅。 それらの事案を紙に書きとった隊長はじっくりと眺めていた。 どうやら、作戦を考えているらしい。 俺も、指令部の爆撃と戦車中隊の壊滅から言える事は分かる。
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