雷跡15 霧の向こう

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あとは、ひたすら待つだけだ。 安心すると、背中に背負っているハイドレーションシステムから水を飲む。 此処は常夏の国、ハワイ。 午後の日差しは島の温度をみるみる上げる。 それに加え、視覚偽装にIR偽装。 蒸れて熱い。 先程まで標高の高い山の中腹にいたせいか、余計に暑さを感じ、汗を掻く。 いかん、体力を消費する訳にはいかない。 「それにしても、熱いな」 隣でIRシートにくるまりながらつぶやく隊長。 どうやら俺と同じ状況の様だ。 「はい。 なかなかの熱さです。 まぁ、ある程度乾燥しているので日本の夏に比べたら結構いいですけど……」 「そうか。 なんかねぇ……こうしていると若い頃思い出しちゃった」 隊長の口調が変わった。 これはプライベートな時の口調だ。 「若い頃と、いいますと?」 「私が未だ自衛隊に入る前の事。 以前私のお父さんの事話したっけ? 私のお父さん、民間軍事会社関連の仕事もやっていてね。 その関連で良く砂漠に行ったのよ。 その時の感覚に良く似ている」 「その時……砂漠で戦闘した事があるのですか?」 「まぁね。 ちょっとだけ。 その時に、最初の友達が出来た。 多分最後の友達。 楽しかったわよぉ。 ゲリラのアジドに押し入って金品を全部掻っ攫って帰るの。 帰り道にクリーニング業者で綺麗な金に換えてもらってね」 うわぁ……やっぱりする事が違う…… 「だけど、今どうしているかねぇ。 今までこの時代の事で精一杯だったから、ある意味米軍が思い出させてくれたのかもね」 小さく微笑んでいた。 その時。 「こちらエコー2。 東南東方向の稜線上に高温の気団を発見。 恐らく軍事車両の排熱です」 現実に戻すかの如く入った通信。 反射的に、持っていた双眼鏡がそちらに向かう。 みえた…… 東南東に見える稜線。 距離は4キロ程だろうか? そこに陽炎が見えた。 すると、何かがひょっこりと顔を出す。 この時代の戦車は最近覚えたばかりなので何とも言えないが……恐らくT-20だろう。 稜線から砲塔だけを出した状態で停車。 恐らくこちらの様子をうかがっているのだろうか?
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