雷跡15 霧の向こう

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「来たか、エイブラムスめ。 しかも、ストライカーMGSの護衛付きか」 ぞろぞろと出てくる戦車や戦闘ヘリの数々。 気づいた頃には、エイブラムス、ストライカーMGSを中核とした戦車中隊を、M4中戦車やM6重戦車が取り囲み、上空をアパッチやコブラといった戦闘ヘリコプターが、前方をM18とT-20が監視するという、異様な光景ができあがっていた。 それが、ゆっくりとこちらに向かってくる。 「全小隊に通達! 発砲を禁ず! 発砲を禁ず! 無線を使うな! 回せ!」 突然隊長が大きな声で叫んだ。 続けざまに近くの小隊がそれを復唱し、全体へ広まっていく。 本来自らの位置を悟られてはいけない戦場において、ましてや偵察中の兵士が大声を上げるなどあり得ない事だ。 しかし隊長の判断は正しいのかもしれない。 それは、無線を使う事の方が逆探で居場所が分かってしまうからだ。 肉声ならそうは届かないし、そもそも向こうは大隊規模の戦車の群れだ。 エンジン音がうるさくて声なんて聞こえやしない。 少々時間はかかったものの、全体に届いたようだ。 しまわれる火器。 最早、俺達がわざわざ攻撃して偵察する必要もない。 「ですが、どうしますか?」 無線を使わない事で、現在位置は特定されないだろうが、それでは指令部と連絡が取れない。 一瞬首をかしげた隊長は、一人の隊員を見つめる。 記録役で、望遠レンズ付のカメラで撮影していた隊員だ。 「此処は徹底的にアナログだ。 三沢、伝令になって欲しい」 「えっ、私がですか?」 「そうだ。 貴様、バイク乗っているとか言っていたよな」 「はい。 ですが、それはこちらに来る以前の話で……」 「トラックに偵察用オートバイが乗っている。 やってくれるか?」 「……わかりました」 「ありがとう」 隊長の笑みを見ると、その隊員は一礼し、停車してある地点まで走っていった。 再び米軍を見る。 「敵戦力は強大だが、奴等は一つ忘れている。 我々には、自走15榴とMLRSがある」 自走15榴……自走155mm榴弾砲の事だ。 それに多連装ロケット発射システム。 確かに特科大隊がいるのだからこれぐらいの装備があって当然だが、考えてみるとそれらの火力は絶大だ。
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