雷跡15 霧の向こう

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〈収容完了。 他にいません〉 漏れる悔しそうな声。 実際は、捜索すれば見つかったのかもしれないが、そんな余裕などなかった。 〈陣地転換、開始!〉 車両群は、一斉に東へと敗走を始めた。 その命令は、日本軍にも伝わったが、5式戦車中隊は動こうとしない。 〈我々ニハ撤退ノ二文字ハ非ズ。 我、敵戦車ヲ殲滅ス。 掩護ヲ願イ足シ〉 闘う前から敗走を始める俺達を見てか、無線が飛んできた。 〈第2戦車中隊に告ぐ! 敵の戦力は想定を遥かに超える戦力だ! 早急に陣地変換を……〉 〈我ハ官軍ナリ。 撤退セズ〉 〈馬鹿を言うな! MMPSも10式も無い今、どうやって戦う! 105mmじゃぁ話にならんぞ!〉 〈コレ以上ノ更新ハ無用ト判断ス。 貴官ハ敗走ヲ続ケルガ良イ〉 〈止めろ!〉 どうやら、今までの戦闘から、自分達の力を過信していた様だ。 確かに、5式は強い。 1・5世代型相当の性能を持っている。 そもそも米国の戦車は単体の質に書けているのだから しかし、3・5世代型に対しては、それは、あまりにも非力であった。 〈目標、敵新型重戦車! 徹甲半集中! てぇ!〉 一斉に鳴り響く砲声。 放たれた弾丸は、走り続けるエイブラムスの砲塔正面装甲に着弾。 5式中戦車に搭載されている5式装弾筒付徹甲弾(APDS)の貫徹能力はRHA換算250mm。 一方、エイブラムスの運動エネルギー弾に対する防弾能力はRHA換算600mm。 そして、傾斜あり。 そもそも、劣化ウランやタングステンを使用していないただの徹甲弾だ。 重量のある金属を使っているといえど、密度は低い。 当然にして、表層の劣化ウランプレートに弾かれ、明後日の方向へと飛んで行った。 〈命中確認。 しかし、貫通せず!〉 叫ばれる無線。 もう遅い…… 続けて放たれるエイブラムスの咆哮。 ラインメタル社製120mm44口径滑膣砲。 そこから放たれるM829A2弾の初速は1700m/s。 鋳造によってつくられた5式中戦車の砲塔正面装甲はおろか、背面装甲を突き抜け、背後の地面に深々と突き刺さった。
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