第三章 千里眼の男

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荒れた獣道を真っすぐのぼっていくと、大きなくぬぎの樹に突き当たる。 そこから更に山頂を目指してひたすら真っすぐと歩くと、小さな山小屋が見えてくる。 人一人が暮らすのでやっとなほどの大きさのその小さな家には、巷で「千里眼を持つ男」と噂される男が住んでいる。 過去、現在、未来を見通す天眼通の力を持つとその神通力を讃えられ、その力を借りようと彼の元を訪れる者は後を絶たない。 「……というわけで、君の力を貸してほしいんだ」 「ふーん。相変わらず、一銭の得にもなりゃしねえことばっかに首突っ込むよな、アンタ」 目の前にあぐらをかいて座る、やけに目つきの悪い男が権高に言い放つ。 「まあ、お金にはならないけどさ。人助けだよ」 「人助けねえ。よくもまあ、懲りずに続くもんだよ」 「あ、お酒で飲んじゃ駄目だよ。ほら」 包みを開け、粉薬をお酒で流し込もうとする彼を制止し、湧き水の入った竹筒を手渡すと、舌打ちと共に引ったくられた。 「ちっ」 頭痛持ちの彼にとって、私が調合する薬は手放せないらしい。 「最近、目の調子はどうだい?やっぱり、まだ霞む?」 「まあまあだな。あんた、土地神より薬師のほうが向いてるんじゃねえの」 竹筒を放ってごろりと寝転がると、私が手土産にと持ってきたアケビの実をかじった。
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