第一章 旅人

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「ん?」 辻の反対側で草鞋の紐を結び治していた男が、すっと立ち上がった。 お鈴ちゃんが駆けていった後に、少し距離を空けて同じ方向に歩き始める。 「…………?」 一見、どこにでもいる町人に見えた。 黄ばんだ手拭いを頭に被り、年季の入った薄茶の着物に股引という、ごく普通の姿。 片手に唐草模様の風呂敷包みを提げ、猫背で足早に歩いてゆく。 しかし、草鞋の紐を結んでいたにしては、彼はやけに長いこと屈んでいた。 (……まさか)
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