第三章 千里眼の男

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頭の後ろで腕を組み、目を閉じると口を開いた。 「……憑きもんのこと、“蛇籐螺様”って呼ぶんだよな。正体は何だと思う?」 「お鈴ちゃんは“蛇”だって」 じろりと目つきの悪い三白眼が、私の紅い目を睨む。 この男と会って今年で3年目になる。会えばいつもしかめっ面の彼を見るたび、機嫌が悪いのか、はたまた私が嫌われているのかと思っていたが、単に目つきが悪いということが最近わかってきた。 「ああ、蛇だよ。“藤”の樹にとぐろを巻いてる蛇だから、“蛇籐螺”。白い蛇……ありゃ、アオダイショウか」 「え?」 何故、そこまで分かるのだろう。まだ“蛇”だとしか言っていないのに。 「四遠(しえん)、もう“視た”のかい?」 「まあな。その蛇はアンタを拝みに来たお武家さんの奥方の亭主――城主の先祖に殺されたんだ。そりゃ、祟られるわな。蛇は末代まで祟るっつうもんな」 古来より、蛇は底知れない魔性と豊饒を司る神聖さという両義性をあわせ持つ、ある意味矛盾した存在である。 執念深く人を追い回して祟るものと恐れられる一方で、雨を降らし、大地に恵みをもたらす神、または神の使いとして信仰を集める存在でもあるのだ。 この国だけでなく明(みん※中国)や琉球、高麗(※韓国)、天竺(※インド)といった様々な国でも、神聖な存在として崇められている。 蛇神である大物主神(おおものぬしのかみ)や、白蛇の形で現世に現れたという白龍大神。 道教の祖神と言われる伏義と女咼(じょか)は上半身が人、下半身は蛇であるといわれているし、「山海経」には天候を司る人面蛇・燭陰(しょくいん)や、干ばつを呼ぶと言われる鳴蛇(めいだ)など、数々の蛇が登場する。 「それで“蛇藤螺様”は自分を殺した血筋を絶やそうとしているのか……」
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