第三章 千里眼の男

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お鈴ちゃんの小さな腕に黒々と浮かび上がった、まるで縄をきつく締めあげたような蛇腹の痕(あと)と、そこに残った透明な鱗。 憑いた家系の者だけでなく、近づく者にも類が及ぶならば、もはや「蛇籐螺様」は祟り神と化している。 「血筋を絶やす?」 男が――四遠が怪訝そうな顔になる。 「絶やしたいなら、とっくの昔に途絶えてんだろ?白蛇が死んだのはもうずいぶんと昔、江戸に今の幕府が出来る前の、今川、織田、細川、京極ら諸大名が天下取り合戦してた時代だったぞ」 「えっ?」 今は文政の丙戌(1826年)。そこから戦国の世となると、もはや二百年以上も前となる。 私が生きていた頃より、更に昔の話だ。 「そんなに昔なのか……」 長い歳月を経て、座敷わらしのお鈴ちゃんを害することができるほどの力を持った蛇神――――私の力など、及ぶのだろうか。 不安で、胸中がくすぶってゆく。 「なんだ、不安なのかよ。なんか厄介そうな奴らだし、無理に関わらなくて良いんじゃねえの?別にアンタが救ってやる義理も縁もねえんだろ、どうせ」 お鈴ちゃんも似たような事を言っていたことを思い出す。 「身も蓋もないなあ。君も、お鈴ちゃんも」 「別に、好きにすりゃあいいさ。止めやしねえけどよ。ただ、アンタも拝みに来る奴の言うことホイホイ聞いてたら、身が持たねえだろう」 そう言って手を伸ばし、背後の箪笥から黒檀に銀があしらわれた煙管(きせる)を取り出すと、きざみ煙草を丸めて火皿に詰めた。囲炉裏(いろり)の中でパチパチと赤く燃える炭火に押し付け、火を点ける。 すう、と吸ってふうっと吐けば、四遠の口から白い煙が雲のようにゆらめいた。
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