序章

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そもそも、自分は神籍に入れるような人間ではない。 生前は一介の薬師でしかった。 他人に誇れるような徳も肩書きも持ち合わせてなどいない。 人と違うのは色素が抜けて灰色になった髪と、この薄気味の悪い色をした目玉、その姿故に付けられた“忌み児”という蔑称ぐらいだ。 「しかし……」 「お前さんも生真面目な男だねえ。 この国に神なんて八百万いるんだよ。 お人好しな奴もいれば短気な奴もいるし、何考えてんのか分かんないのもいる。 辻神なんてね、その地の阨さえ祓ってりゃ、後は好きにやってていい」 猿田彦様が苦笑する。 「まあ、人の世に愛想が尽きたっていうなら、無理にとは言いやしないがね。 でも辻神なんてのは、成ろうと思っても成れる奴は限られてる。 せっかく拾える命だ。 今度は人目なんざ気にせず、面白可笑しく生きてみたらどうだね?」 猿田彦様が微笑む。 真ん丸な目が細められ、人懐っこい表情になった。
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