序章

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「猿田彦大神様」 公然と頭を上げる。 下を向いて生きるのは、もうこれっきりだ。 「謹んでお請けします。 どうか私を、猿田彦様の眷属にお加えください」 猿田彦様の目を真っ直ぐ見据える。 他人の目をまともに見るなど、何年ぶりだろうか。 深い叡智を湛えた琥珀の瞳に圧倒される。 しかし、ここで目をそらすことだけは絶対に出来ない。 「……お前さん、名は?」 私には、親から付けられた名が無い。 村人からは“忌み児”と呼ばれていたが、それ以外と云えば確か―― 「“赤目”と呼ばれておりました」 そりゃ名前じゃなくてあだ名じゃないのかね、と猿田彦様が呟く。 「じゃあ、これからは“蘇芳”と名乗るといい。 赤より深い紅の、美しい、お前さんの瞳の色だ」 「はっ!」 跪き、頭を垂れる。 忌み児の赤目は今、死んだ。 「では、猿田彦の名に於いて改めて命ず。 汝、蘇芳。 岐の神として辻に在り、阨を祓い疫を退け、永くこの地を守護せんことを」 「ははっ!」 これからは辻神・蘇芳として、人々を守って生きてゆこう。 そう決意を新たにして、猿公の面を顔につけた。
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