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第一章 旅人
ああ、今日もまた泣いている。
一重で切れ長の美しい目元から幾筋もの涙を流し、社に手を合わせている。
あの人は昨日もそうやって泣きながら、長いこと社を拝んでいた。
「道祖神様、どうか夫をお助けください。
あの人の病を、治してやってください」
その姿から察するに、彼女は旅人のようだ。言葉もこの土地のものではない訛りが混じる。
夫婦で行脚でもしているのだろうか。
それとも、夫の病の快癒を祈願しての遍路なのか。
社を覆うように植えられたハナズオウの樹の枝に腰掛けて見下ろすと、彼女の豊かな黒髪が目に入る。
まだ年若いだろうに、赤く晴れた目と、その下にうすく浮かんだ隈が痛々しい。
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