第一章 旅人

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彼女が供えてくれた橘の実を枝からもいで、皮を剥く。 柑橘に特有の爽やかな香がふわりと広がった。 「すおーちゃん、何食べとるん?」 社の横から、座敷わらしのお鈴ちゃんがひょっこりと顔を出す。 「ああ、お鈴ちゃんか。 半分食べる?」 「ちょーだい!」 いそいそと屋根によじ登ると、無邪気に両手を出してきた。 「はい」 「悪いねぇ」 見た目はどう見ても10歳にも満たない幼子だが、まるでお婆さんのような話し方をする。 お鈴ちゃんは私よりずっと歳が上だ。 享年こそ幼いが、座敷わらしとなってから100年近くの時を過ごしているのだという。
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