1人が本棚に入れています
本棚に追加
春…。桜の季節。桜吹雪は風と踊る。ここは一つの舞台。君と僕の静かな舞台。
「花見の席はやっぱり酒臭いなぁ…。」
僕は一人満開の桜並木の道を歩いていた。春は嫌いだけど桜は別だ。…日本人だな。
でも、春は嫌だ。春は僕の大切な人を奪っていく。
「ユキ…。また君のいなくなった季節だ。」
唯一の親友の突然の死。それは僕の心を無惨なまでに引き裂いた。
君は僕を助けてくれたのに…、僕は君を助けてあげられなかった…。
その事がさらにこの季節を嫌いになるのに拍車を掛けていた。
心が重くなる。
辛さが増す。
ただ桜を見ると君の約束を思い出す。
『僕が死んでも…。悲しまないでね。自分を攻めないでね。そして笑って。僕を思い出しても…、』
思い出しても…なんだったっけ…。悲しい。死んだ事じゃない…君の記憶が埋もれていくことが…、君との思いでまでもが…消えていくことが悲しい。
すると声が聞こえる。懐かしい気がする。
《僕を思い出しても、僕は花となって君を見守ってるから。》
気が付くと僕は桜の木の根本で眠っていた。辺りはもう暗くなっていた。人はもういない。静けさに落ちていた。
「あれは…? 夢か? それとも…。」
最初のコメントを投稿しよう!