逸話

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        サヨ 「へっへっへー、小夜はまだまだ子供だな」 「子供じゃないもん、もう十だもん」  すっかりからかう程にまで仲良くなっていた。  最近の楽しみは、この孫の小夜を弄ること。 「そういえば、ワンちゃんの名前は?」  突然の疑問に頭が真っ白になった。名前なんて気にしてなかったし、あるのかどうかも知らなかった。 「あん? 知らね、ない」 「えぇー、勿体ないよ。私が付けてあげるね! えーっと……」  小夜が顎に人差し指を添えながら一生懸命考える。その顔に皺を作りながら悩んでいる姿に、犬は思わず笑いそうになる。  リンタロウ 「凛太郎! どう? 可愛いでしょ」 「よくわかんねぇや。好きに呼んでくれい」 「ふぉっふぉっふぉ、クロか、中々良い名前じゃな」 「ぶへっ、爺さん間違えてんぞ」  そんな話題の絶えない会話をし続け、家に来てから二週間が経とうとしていた。  お爺さんがもう年だという事もあり、孫の遊び相手を買って出たのだ。 「待ってよー!」  この日も、いつもと同じように、朝から二人で村を駆け回って遊んでいた。  すっかり日も暮れ、そろそろ家に帰ろうと、眠そうな小夜の裾を齧って引っ張る。家が見えてきた時、いつもと違う感じに眉を潜めた。  二人が見た光景、それは老人の家の前にある人集り。 「あ、爺さん!」  家の前にいる老人をみつけるや、二人して駆け寄る。  しかし、翁は茫然とその場に立ち尽くしているだけだった。  呼び掛けに全く反応しないお爺さんを訝しぎ、凛太郎は老人の視線の先に目を配った。 「なっ……」  屋根に矢が刺さっており、赤い紙が巻かれている。  矢文というやつだった。  しかし、これがどういう意味を示しているのか分からなかったが、どうしてもあの言葉が頭から離れなかった。
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