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「生け……贄、ってことは、まさか――」
考えたくもなかった。今見てる光景も、夢なんじゃないかと、何度も何度も爪で頬を引っ掻いた。
しかし、冷める筈もなく、辺りの騒つきが耳から離れない。そして以前聞いた儀式の内容を思い出し、自分の目が開かれていくのが分かった。
「小夜……」
小夜の方を見ると、眉を下げ脅えたようで、表情が強張っていた。顔色もどこか青ざめており、呼吸も僅かだが乱れていた。
こんな幼い子供が、怖がらない訳がなかった。村のしきたりとは言え、本望とはあまりにもかけ離れ過ぎている。
「爺さん! いつ、いつ儀式は行われるってんだい」
「明日の晩じゃ……」
老人は涙を堪え、震える声でそう呟いた。
その後は三人で家の中に入ったが、息が苦しくなるような重い空気が包んだ。
凛太郎はどうしたものかと、犬らしく床に座りながら頭を悩ませる。チラリと横を見れば、老人と小夜は抱き合いながら息を殺して泣いていた。
その光景だけでも胸が苦しくなる。そこで、ふとある疑問が頭を流れた。
「そういやあ、小夜が大事にしているもんって何だ?」
浮かび上がる疑問にムクリと上体を起こしながら、家の周囲を見渡して尋ねる。
少女は声をしゃくり上げながら答えた。
「私……おじいちゃんがいればそれで良い……」
「ッ! ってこたあ……」
気持ちが焦って止まらなかった。確かにこの家には必要最低の物以外あまり置かれていない。
ということは、少女が大切にしているのは自ずと物ではなく人になる。
動揺を隠しきれず、目が泳いでいるのも分からないほど、心情の整理がつかなかった。
そのまま腰が抜けるように再び座ると、独り言のように、よく聞いていないと流れてしまう程のあっさりとした声で言った。
「オイラ、明日の儀式、絶対させねっから」
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