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赤い絨毯
真っ赤なランドセルから白い細い手と小さな靴が生えている。
ランドセルを背負ったミィちゃんを後ろから見たら、誰もがそう思った。
体の小さなミィちゃんは、スッポリとランドセルに隠れてしまい、
ミィちゃんだか、
ランドセルだか分からなくなってしまう。
地上スレスレに浮かぶランドセル、見る角度によれば、そういう風にしか見えない。
ミィちゃんは小学一年生だ。
クラスで、いや、学年で一番体が小さい。
そのために、いたずらっ子にチャチャを入れられたりもするが、けして泣いたりはしない。
そんなときには、キッと睨みつけてやれば、相手はビビるということを知っている。
子どもにしては整った顔立ちで、鼻は細めで高い。
眉は薄くもなく、こけしのように、筆で描いたような面もちがある。
口は大きめであるが、だらしなく開くことはない。
目はあくまで切れ長であるが、けして細くはない。
そして、奥二重である。
そういったパーツが卵形の輪郭に収まり、額は、富士額とまでは言わないが、確かに、かわいい程度の広さは保たれ、それは、たいそう律儀そうな形をしている。
そして、こじんまりとした耳には、お母さんが刈ってくれた、おかっぱの髪が、ちょうど良い塩梅にかかっている。
そんな、体のわりに大人びた顔立ちが、相手を威圧するのかも知れない。
映画「ジョゼと虎と魚たち」の、主人公ジョゼの少女時代を演じた女の子に似ている。
施設を脱走したときに、「うちが、今日からあんたのお母ちゃんになったる」(セリフはうる覚え)と言ったときの目がミィちゃんそっくりだ。
家は、あまり余裕のある家庭ではない。
母親は、製材所でパートとして働いている。
父親は、ここではそのことには触れないでおこう。
ミィちゃんは、
お母さんが大好きだ。
妹ができたときには、お母さんに誉められたくて、見よう見まねで、オムツ替えも手伝った。
ミィちゃんの好きな匂いは、アスファルトの匂いと、お母さんの務めている製材所のおがくずの匂いだ。
学校の帰りに、ちょっと遠回りしたら、お母さんの居る製材所に行ける。
ホントは毎日行きたいけど、叱られるから、行かない。
でも、寂しいときには行ってしまう。
そんなとき、
お母さんはいつも困った顔をした。
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