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「兄上、なんで……」
血にまみれることも厭わずに死んだ兄に縋る妹をいつまでも見ているのも可哀想だと思ったか、野次馬も徐々に捌けていく。
「太一さん、佐幕派だったもんねぇ」
「先週の池田屋の一件といい、本当物騒な世の中だわ……」
その会話を最後に滋の周囲は驚くほど静かになった。
「佐幕派……」
野次馬たちの言葉を反芻し、滋はわなわなと震えた。
兄は常日頃から佐幕――つまり幕府を擁護する論を唱えていた。
外国を打ち払い、幕府を嫌う攘夷志士とは対極にいると言っても過言ではない。
だから殺されたというのか。
ただただ佐幕派であったがために。
涙はいつの間にか止まっており、かわりにどうしようもなく憤怒に襲われた。
攘夷志士、それも長州藩攘夷志士に嫌悪を通り越して憎悪を抱く。
「死んだって許さない……」
何か良案が思い浮かんだらしい。
滋はすく、と立ち上がると家の中へと転がり込んだ。
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