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今なら、戦争中の相手国に捕らわれたスパイの気持ちが痛いほどわかる気がする。
現在置かれている状況は、そこまで壮絶な立場とは少し違うものの……ある種の拷問にかけられている、という点では同じく。
ヒヤリ。首元に、悪寒が走った。
「おい」
薄暗がりの中、女性の声がする。女性の声とはいえ、可愛らしいものでは決してない。威圧的で、明らかな殺意を含む、低い声色。
すぐ目の前に、その声の主である女性の顔が現れる。それは端整な顔立ちをしていた。
二十代程だろう。金髪のロングウェーブを、黒いリボンでツインテールにしている。ここまではいい、その、首から下。その身なりは驚くことに、メイド服だ。
しかしこの状況下で、メイド萌えとか言ってられる余裕なんかない。いや、メイドは好きだが、こいつが俺の喉元に向けているのは、包丁だ。間違いなく本物の。研ぎ澄まされた刃は、確実に頸動脈を捕らえている。
「殺されたくなかったら……」
メイドが言う。
「俺は召喚獣ですと言え。というか、召喚獣になれ」
それは異質な要求。
これを何も言わずに呑めと、俺は脅されているらしいのだ。
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